令和7年度 東技連通常総会 挨拶

2025.06.13 於:KKR東京
東京都技能士会連合会会長 大関東支夫

1.開催にあたり思うこと

今年も半年がすぎて総会の時期となりました。この一年を振り返ると世の中は目まぐるしく変わっています。変わり方が速いうえに昨年の常識が今年は通用しなくなっていることにも驚きます。
確か昨年の総会で申し上げたことがあります。
「いまは民主党のバイデンさんが大統領に再選される可能性が高いが、アメリカ、ロシア、中国の大国はトランプ、プーチン、習近平といった強力なリーダーで指導されていく可能性も考えられる。困るのは、対立することではなく3人が仲良くなって大国有利なスクラムを組まれること。ありえない想定ではなく覚悟しておく必要がある」と。昨年の6月時点はまだ笑って済ませられる予測でした。しかし、いま現実の出来事としてとらえなければならなくなっています。
もう一つ驚くことは、日本では主食のお米が足りなくなり暴騰していることです。政府は3年前の備蓄米まで放出して対応しています。他の物価もことごとく上昇しています。昨年の今頃は考えられないことばかりです。こういう話ばかりすると、「なぜ技能士会に関係ないようなことばかり話をするか」と言われそうですが

 

2.ものづくりは政治・経済・環境に左右されるからです。

コロナが流行すれば衣料・医薬品、マスク、アクリル板等が多忙を極めまました。災害が起きると鳶、大工、屋根・畳職人等災害復興関連の人たちが渇望されます。戦争になれば軍事産業一色になります。今日もイスラエルがイランの各施設を攻撃したニュースが入りました。殆どの株は大暴落していますが、日本の軍事関連だけは暴騰しています。そして今後は関税です。関税が強まればものづくりの輸出関連産業が影響を受けてきます。
こうしたことからも私たち「ものづくりに携わる者」は、世界の動きに敏感になる必要があることが分かります。いま最大の関心事はトランプ関税ですが、これから色々なところで影響が出てきます。

①まずは関税の弊害です。トランプ不況が心配です。

税金を高くして好況になった例はありません。日本の歴史をみても信長の楽市楽座、大阪堺では自由取引が好景気となり街の活況が実現しました。

②自国優先施策をとるアメリカが頼れなくなりました。

これからアメリカ離れ、アメリカ売りが続きます。アメリカ国債が売られ、株価も暴落していきます。数年後にトランプ大統領が変わった後もアメリカへの信頼関係は戻らないと思います。アメリカは自ら世界のリーダーを放棄してしまいました。これからの世界は米国抜きの経済協力体制が始まります。

③これまで仲の悪かった米国・ロシア・中国の軍事3大国が手を組み始めます。

この軍事3大国は、核兵器で他国を威嚇し国内の反対勢力すら武力で抑え込む政策をとっています。
今日もアメリカ・ロスアンゼルスでは民間人のデモに対し州の警察を頭越しで国の海兵隊が出動して治安にあたっています。ロシアや中国も同様の国内の事案には似たように押さえ込みます。こうなると国内から嫌われていきます。私から見ると「質の悪いガキ大将」の行動のように思います。
当然、こういう手法は世界からも嫌われ、大国離れが加速していきます。世界中から相手にされなくなってくるアメリカ、ロシア、中国の3国。次は嫌われ者同士で融和政策に転換していきます。大国同士が仲良くして新たに大国による指導をしようとする動きです。暴力団の縄張りを決める手法です。
この動きに反発する国々はこの大国の傘下に入るか、新たな第三勢力として協力しあう合従連衡の動きをしてきます。動き始めている欧州諸国やインド、東南アジア、アフリカ、イスラム諸国といった第三勢力の誕生です。第二次世界大戦前の様相に似てきました。第三次世界大戦への危機がはじまっているのです。

 

3.こうした中で日本はどう進むのか

①これから頼られるのはドイツと日本かもしれません。

すでに欧州ではドイツの軍事力拡大を容認する動きがでています。これまでナチス時代の警戒心からドイツの軍事拡張に否定的でしたが、フランスやイギリス、イタリア、スペイン等の経済力では軍事大国に対抗できない。ものづくりに強く経済力のあるドイツの力に期待が高まります。日本にも同様の声があがります。「アジアの安定のために日本が強くなって欲しい」「日本が中国を牽制して平和に貢献して欲しい」という期待です。

②では受けて立つ、日本の政治・経済の現状はどうか

いまの日本は、「悲観も楽観もできない状況」にあるとみています。日本の持つ潜在的な技術力と日本人の勤勉さが再浮上、再構築されていけば日本も捨てたものではありません。だが両面あります。

 ②-1.一つは海外からのインバウンドの急増です。

昨年の訪日外国人は約3,700万人でコロナ前を超えました。消費額も8兆1395億円となり一大産業です。今年25年は4200万人以上と予測されています。残念なのは今の日本はこの勢いを生かしきれていません。ホテル宿泊料も高騰しています。日本人が泊れないほどです。しかし受入れ体制が人手不足等で間に合わない。受け入れ体制が追い付けません。
ものづくり産業もこのチャンスが生かせない。外国人観光客が訪れてくれそうな「物品販売施設」「道の駅」「匠の体験」等もありません。インバウンドの全体像を企画・対応するシステムがないのです。ますます私たちが東京都に提案した道の駅を組み込んだ「匠プラザ」「技能士会館」の必要性が証明されます。

 ②-2.日本の技能、技術力が生かされていない

日本の潜在的なものづくり技術が埋もれています。最近になって日本の軍事用技術への期待が高まってきました。イギリス、イタリアと戦闘機の共同開発もはじまりました。自動車技術を生かした小回りのきく戦車、無人飛行機、ドローン、軍事ロボット、AI技術等です。これまでタブー視されてきた分野です。
日本の軍事力強化への要請も高まっています。日米同盟があるから安心と言っても日本有事の際にアメリカ人が日本人のために血を流すとは思えません。第9条を盾に日本だけが戦争放棄を主張しても世界には通用しません。ケネディ大統領が言うように「常に戦争の準備をしている国が守られる」時代なのです。

 ②-3.強いリーダーの誕生が求められます。しかし日本は強いリーダーの育ちにくい国です。

歴史的みても強いリーダーが誕生しますが、一時的に人気がでてもすぐに飽きられ嫌われ追われてしまい
ます。特にいまは少数与党の悲劇があります。大衆迎合(ポピュリズム)に頼らないと政権が維持できない。与党は、「消費税廃止」「特別給付金支給」「年金改定」等、耳障りの良い大衆受けのする政策を主張する政党と妥協を重ねていく。予算規模は膨張しますので、財政破綻の道を進みます。将来の子供や孫が心配です。

 

4.ものづくりに強い国が生き残る

世界が混乱すればするほど、ものづくりへの期待や評価が高まってきます。
いま、アメリカが関税に走るのは何故か。「ものづくりで対抗できないから?」ではないかと思います。自信がある国の大統領なら、「日本に負けない車や電気製品を作れ」と厳命するはずです。それができない。だから関税をかけて自国の製品を守ろうとする。関税をかければ高い商品を買うのは米国国民です。人やものの入国を拒む。現代の鎖国に入っています。
では、「軍事大国は長続きするのか?」と言えば、私は「しない」と考えています。私はキリスト教徒ではありませんが、聖書の中に好きな言葉があります。「優しきもの後を継ぐべし」という言葉です。動物の世界を見ると、ライオンや虎が強い動物です。鳥の世界では鷲や鷹が強い鳥です。本来ならこれらの動物が数の上でも一番多くて良さそうに思います。しかし現実は強い動物や鳥は絶滅の危機にあります。人間の世界でも同じです。歴史的にも優しくない独裁者はことごとく早死にしています。「やさしい人、思いやりのある国が長生きをして跡を継ぐことができる」のです。
ものづくりが重視されればされるほど、私たちは技能士会を強くしていかなければなりません。

①技能士会は技能士の育成、技能継承の担い手にならなければなりません。

震災等の進展の遅れから国の技能士に対する評価も変わってきました。民間企業では大手建築会社が大工等技能士養成に入りました。こころ強い動きです。

②2028技能五輪世界大会は何としても成功させなければなりません。

日本の技能を再評価、再構築するチャンスです。国会議員団の支援にも力がはいってきました。成功に向けて多くのイベントも始まります。皆様のご協力を改めてお願いします。技能士を目指す若者の夢を実現させたいです。

③頼られる技能士会になります。

先日、自民党国会議員で構成する技能支援の会から、「技能士の育成、技能五輪世界大会には技能士会との連携が不可欠である」との提言がありました。私たちは本物の匠の技をみせていかなければなりません。
これから、匠の技祭典(7/25浜松町)、技能五輪(10/17愛知県)、技能グランプリ(2/27大阪)、全国で各種イベント、ものづくり教室等盛りだくさんです。

課題盛りだくさんですが、今年も皆様、力を合わせて元気に活動していきましょう。
ありがとうございました。